行き過ぎた正義は悪である。 昨今の日本国内の風潮として、叩く理由がある或いは叩く理由があると思われる対象に対しては、なにをしても構わないというものがあるが、日本は法治国家である。法治国家であるので、当然だが感情よりも法律が重んじられ、更にいうと法による秩序が最も重視されるのはいうまでもない。 ここでは裁判例として、かの有名な昔話**【かちかち山】**を題材に、行き過ぎた勧善懲悪に警鐘を鳴らしたいと思う。

まず前提条件ともなる**【かちかち山】**の大まかな話を時系列順に紹介しておこう。

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1.畑を耕して暮らしている老夫婦のところに、タヌキがやってきて芋を食べてしまった 2.じいさんは罠を設置してタヌキを捕獲し、ばあさんにタヌキ汁にするよう命じた 3.タヌキはばあさんを騙して杵で撲殺、その肉を煮こんで婆汁にしてしまった 4.ばあさんに化けたタヌキが、じいさんに婆汁を食べさせた 5.じいさんは報復のために近くの山に住むウサギに殺害を依頼した 6.ウサギはタヌキを柴刈りに誘い、背負った柴に火をつけた 7.翌日、ウサギはタヌキに薬と称して唐辛子入りの味噌を渡し、患部に塗らせた 8.タヌキを漁に誘い泥船に乗せ、さらに溺れるタヌキを櫓で沈めた 9.ウサギはじいさんに依頼の完了を報告した

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以上が**【かちかち山】**の時系列である。ちなみにこの時系列はじいさん及びウサギの報告によって作られたものであり、1~4の部分に関しては信憑性に若干の疑問が残る。

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まず1であるが、これは田舎の農村ではよくある話だ。タヌキは日本国外では幻の動物と呼ばれるほどの希少で人気のある動物だが、日本では害獣にカテゴライズされる。理由はひとつ、農作物を食べてしまうからだ。

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次に2であるが、罠の設置には狩猟免許の取得と市町村(自治体)への申請が必要となる。仮に私有地といえども、勝手な罠の設置は狩猟法違反となるので、役所への申請は忘れずに済ませておかねばならない。 また罠の設置に関しては、錯誤捕獲や人の立ち入りの多い場所での設置は避けるように注意する必要があり、農村の畑周辺という不特定多数の往来が考えられる場所への設置は基本的に許可されない。

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3であるが、じいさんの家には監視カメラがなく、 【タヌキがばあさんを騙して撲殺した】 【その肉を煮こんで婆汁にしてしまった】 という犯行に対する証拠がない。 流しの下からばあさんの骨が発見されているが、必ずしもタヌキによる犯行の証拠となるわけではない。仮にじいさんが何らかの理由でばあさんを殺害後、タヌキに罪を被せようとしていたら、じいさんもまた容疑者のひとりであるのだ。

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さらに4であるが、3と同様の理由でタヌキがばあさんに化けたとする証拠がない。またその際にじいさんを嘲り笑ったとする映像も音声も残されていないため、これも犯行として立証されるものではない。ただし、タヌキがじいさんの家から逃げ出していく目撃証言はあるため、じいさんがタヌキを違法罠で捕獲したという事実は立証済みである。

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以上の点から、じいさんの殺害依頼の正当性は揺らぎ(そもそも殺害依頼に情状酌量の余地はあれど正当性は無いのだが)、むしろ**【無実のタヌキに罪を被せた上で証拠隠滅を図ろうとした】**という別の容疑が生じたわけである。

では、ここで被告に入廷してもらおう。

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今回の被告:反社のウサギさん かわいい顔をしているが前科者である。入念な計画の下、タヌキを殺害した手際は見事としか言いようがなく突発的な犯行とは考えられないため、背後関係を調べてみたところ同様の手口で複数の犯行が発覚した。現在は拘留中の身で、複数の裁判で判決を待っている状態だ。 反社は思いもよらぬ人物が該当する場合があるが、このウサギもまたその例に漏れず、善良な市民の顔をした反社会的な存在なのである。

被告は見ての通り、反省の色など微塵も感じさせないが一方で司法取引には応じており、複数の農家から依頼を受けていた証拠として、契約書と音声記録、殺害証拠として記録してあった写真と映像を提出している。

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ここで5であるが、じいさんの殺害依頼はウサギにより証拠が提出されている。 ウサギは契約の際に音声を録音し、後日じいさんから金銭を脅し取るつもりだったようだ。反社と会話をする際は、電話口であろうと直接会ってであろうと録音されていると思った方がよい。 反社とは接触しないのが一番なのは言うまでもないが。

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