「ノルシュトロム広報車からのおしらせです! 通り魔事件が多発しております、夜間の不要な外出は控えましょう! やむを得ず出歩く際は人気のない路地は避けて、明るい大通りを歩きましょう!」

近頃、町の治安があまりよくないらしい。 数日前から頻繁に広報車が走り回り、警察隊の見回りの頻度も明らかに増えている。これもすべて、とは言えないが、かなりの割合が『ナイトクローリー』と呼ばれる巷を騒がせている怪人の影響だ。

ナイトクローリー。 路地裏の怪人。夜道を這う者と名付けられた謎の怪人で、その異名の通り、夜中に薄暗い路地をひとりで歩いている女性を狙う、カス・オブ・ザ・クソみたいな変質者で、れっきとした犯罪者だ。 被害者は今年だけでも5名。全員が全員、頭から穴に落ちたかのように地面に突き刺さり、身に着けている衣服は全て剥ぎ取られた無残な姿で発見されている。 神出鬼没で大胆不敵、活動範囲はノルシュトロム全域に及び、足取りは一切掴めない。 日が長くなり、夜でも蒸し暑く、ついつい気持ちも開放的になる今の季節は、特に危険だといわれている。

反対に昼日中で活動した例はなく、夜道さえ避けてしまえば遭遇することもない変態に過ぎないけれど、人間が夜間にも利便性と満足を求める今のご時勢、日が高い内に出勤・労働・退勤・買い物を済ませられる者が、果たしてどれ程いるだろうか。 便利過ぎるのも困りものだ。

まあ、無職同然の私にはあまり関係のない話なんだけど。

私の名前はウルフリード・ブランシェット。16歳。狩狼官として自警団事務所に登録しているけれど、今のところ大した実績もない、いわゆる貧乏暇だらけな身だ。 かつて近隣の村々を襲った狼が絶滅寸前まで減った昨今、狩狼官は狼の代わりに悪党や犯罪者を捕らえて報酬を得るのだけど、そう頻繁に悪党に出くわすほど治安が悪いわけでもないし、警察隊が揃いも揃って居眠りしているわけでもない。

かといって、母が持ち出したブランシェット家の狩狼道具を回収するという目的もあるので、そう易々と転職することも許されない。

今日も今日とて、町をプラプラしながら悪党でも探すか、と下宿の階段を下りていると、1階の食堂では同じ屋根の下で暮らす女学生たちが楽しそうにおしゃべりしながら、遅めの朝食を食べていた。 そうだった。彼女たちは創立記念日かなにかで休みだった。

私は本能的に足を逆再生した映像のように後ろへ後ろへと持ち上げながら、階段を後ろ向きに上り、ゆっくりと自室のドアを後ろ手に開けて、そのまま部屋へと避難する。 ドアを閉めて、眠くもないのにベッドの上に転がり、しばらく部屋から出ないと決意を固める。