大陸5大都市のひとつ、自由都市ノルシュトロムは巨大な運河へと結ばれる水門そのものを都市中枢に置いていて、町そのものが巨大な貿易港となっている。しかし欲深い商人たちは海運だけでは物足りず、陸路での交易も充実させたいと考え、王都と商都を繋ぐ大規模な事業計画を打ち立てた。 それが大陸横断鉄道計画。 現在の進捗率は7割強、その圧倒的な開拓力は駅まで足を延ばして、汽車に乗って、実際に鋼鉄のレールの上を走っていれば、瞬く間に目にすることになるだろう。

町を出発して汽車で丸2日、そこが現段階の終着点。 王都に向かう商人たちは、ここから巨大な森を大きく迂回して、あちら側から延びた鉄道に乗ることになる。 そう、大陸横断鉄道のちょうど真ん中の地点には、工事を、いや開拓そのものを阻む巨大な森が佇んでいるのだ。

この森には強力な妨害者たちが住みついており、以前も騎士団から選りすぐりの強者を集めた討伐部隊が派遣されたが、結果は語るまでもない。それはそれは無残な負け方をしたそうだ。

つまり事実上、国を挙げての大規模な殲滅戦でも覚悟しなければ、大陸横断鉄道は完成しないこととなる。そして殲滅戦には攻める側にも大きなリスクが付き纏う。もしも森に火でも放ち、非戦闘員の子どもや老人の命を奪えば、彼らは文字通り最後の一人となるまで戦い続けるだろうし、当然の話で王都にまで攻め込んでくるだろう。

それがどうしたって話だよね。 平凡な市民であり、ただの狩狼官である私には関係ない話だ。 しかし私はどういうわけか鉄道に乗っているし、私の目の前では元騎士の青年がシートに腰掛けて、うつらうつらと頭を上下に揺らしている。

私の名前はウルフリード・ブランシェット。16歳、狩狼官。失踪した母の持ち出した狩狼道具を探している。 彼の名前はレイル・ド・ロウン。26歳。元聖堂騎士団の序列4位で、色々あって現在は自警団員。

そして私たちの目的地こそが、工事を妨害する巨大な森、【タヌチャッチャの大森林】だ。

2日前の話だ。 いつものように契約先のアングルヘリング自警団事務所に立ち寄って、ちんけな語るほどでもない雑魚の稚魚同然の小悪党を捕まえた賞金の申請をしていたら、見覚えのあるような無いような、頭ひとつ以上は背の高い男が話しかけてきた。

「聞いたぜ、ウルフリード。機械式の狩狼道具を探してるんだって」 「そうだけど……誰だっけ?」 彼はこめかみと眉間を挟むように指を添えて、呆れたような目で私を見下ろしてきた。 「俺だよ、レイル・ド・ロウン。元聖堂騎士団の」