彼女との出会いは、今はもう取り壊された雑居ビルにあったラウンジ【コビトカバ】だった。俺は厨房と送迎の黒服で、彼女はラウンジ嬢。 彼女は一言で言うと不器用な人だった。 料理も皿洗いもろくに出来なかったし、気の利いた話も出来なかった。簡単な水割りも作れず、指名もまったく取れなくて、いつも周りの嬢たちから虐められていた。 俺も要領が良い方ではなかったから、彼女にはなんとなく親近感を抱いていた。 俺と違うのは、俺は飽き性で諦めも早く何でも長続きしないこと、彼女は頑張り屋で決して諦めないこと。 そんな彼女に恋にするのはあっという間だった。一か月もかからなかったと思う。俺たちはどこの店でも当たり前にあるように、いつしかお互いに恋に落ち、男の女の関係になった。 俺は彼女と、コビトカバで働くティラノサウルスと結ばれた。
「そうして生まれたのがお前なんだよ」
私の目の前に腰かけたお父さんが、ぷかぷかとアメスピをふかしながら煙の輪っかを作り、照れくさそうに、同時に誇らしげに語った。 どうやら私は人間とティラノサウルスのハーフらしい。 私も16年も生きてるから、自分が普通の人間じゃないことは薄々勘付いてたけど、まさか母親がティラノサウルスだなんて思うわけがないし、父親がティラノサウルスとヤったなんて、そんな馬鹿な話があるとは考えもしないわけよ。
「リアルでドラゴンカーセックスを超えるな! この変態クソ親父!」 「ひどい! 父さんも真剣に母さんとまぐわったのに!」 「うるさい! 馬鹿! 変態! ネットミーム以下!」 「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思いのほか傷ついて泣き喚く父を置いて、私は町へと飛び出した。 16歳の少女は、やり場のない怒りを感じた時に町へと飛び出すものなのだ。だって16歳だから。
私は山田ティラノ、つい先日16歳になったばかり。好きな食べ物は牛肉と豚肉と鶏肉。好きな飲み物は肉汁デミグラスソース。 高校はワケあって初日で退学になって、バイトも15連敗で落ちたから、今はお父さんのやってるガールズバー【ステテコサウルス】で働いてる。 ちなみに友達はいません!
そう、私が高校退学になったのも、友達がいないのも、バイトの面接15連敗なのも、すべては私の出生に理由がある。
生まれた時から普通の子と少し違った。なぜか恐竜とパーカーを合わせたみたいな長袖を着て産まれて、しかも首と肩のところで骨と繋がってるから脱ぐことも出来ず、小中学校ではずっと恐竜ちゃんとかコスプレ女とか年中ハロウィン気取りとか言われながら育ち、事あるごとに先生から脱ぐように怒られて、そんな感じで周りに一切なじめずに現在に至る。 今までずっとお父さんに聞いてもはぐらかされてきたので、16歳になって今日こそは答えてもらうぞって迫ったら、とんでもないド変態な性癖カミングアウトをされちゃったわけ。
お父さんは昔から周りの、背中や腕にラクガキの多い系のお友達に、山田さんでも名前のビッグマン、あ、お父さんは大男って書いてビッグマンって読むウルトラくそ馬鹿キラキラネームで、ビッグな男になるんだって背中にアメリカの大統領の顔が描いてあるような、だいぶ馬鹿なタイプのお父さんなんだけど、名前のビッグマンでもなく、なぜか勇者って呼ばれてたけど、その理由も今日察しちゃったよ。 あれ尊敬じゃなくていじられてたんだね。 勇者(笑)とか勇者(性)みたいな。