夏休みの宿題は夏休みの内に済ませておいた方がいい。 それを口癖のようにしつこく語ってくれた友人は、今どこで何をしているのだろうか?
ヘイ、友人、お元気ですか? シリを呼ぶみたいに呼んでみました。 私は今、いい年した大人なのに、夏休みの宿題を夏休みの内に済ませておけばよかったなー、みたいな気分で過ごしています。 夏休みの宿題を夏休みの内に済ませておけばよかったなー、という気分は、一言で言ってしまうと、夏休みの宿題を夏休みの内に済ませておけばよかったなー、です。 決して手抜きでも皮肉でもありません。 それが一番しっくりくるし、それ以上に似合う例えも浮かばないし、もっというと現代的価値観を煮詰めたようなその言葉は、体の芯の部分に引っ付いているかのように、あるのかどうかも定かではない自我というものにこびりついてしまっているのです。
そう、この忌々しい腰の後ろにへばりついた浮き輪肉みたいになあ! ええい、忌々しい! 千切ってぶちころがすぞ、肉め! 千切れるものなら千切りたいんですー! でも無理なんですー!
そういうわけで私は今、夏休みに済ませておかずに後悔した宿題に悩まされている。そう、無駄肉である。
思えば恥が多いかわからないけど、選択ミスの多い人生でした。 夏休みの宿題、あれが最初の選択ミスだったと思う。私は誇ることでもないけど、堂々と白紙のノートを先生に提出したり、宿題を全部無くしたといって逃げの一手を打つような子どもでした。 もっというと高校を初日で中退しようとするようなクレイジーな子どもでもありました。 そんな子どもがまともな大人になるはずもなく、大学に入った途端に田舎からやってきた女子大生にありがちな、知り合いこそいるもののメンタルはぼっち酒浸りみたいな日々を送り、唯一優しくしてくれた先輩にかわいいかわいいと褒められた時に「あなたのかわいいはポケモンと同じジャンルだからね!」とツンデレなのか嫉妬なのかわからない言葉を掛けてきたブス先輩にユーモアを利かせて「ピカチュ~」と答えるところを「でもあなたよりは顔がいいっすけどね」などと吐き捨てるようなことをしてしまったり、職場の意地悪なババアに「おいてめえ」などと申しながらエビチリのパックを投げつけたりするようなことをしてしまったり、酔っぱらって居酒屋の壁の僅かな段差に眼鏡を刺し込もうとしてしまったり、気がついたら寿司屋の水槽の中に私の眼鏡が亀と一緒に沈んでいたりもしたのでした、お元気ですか?
お元気ですかじゃねえよ、立派な病気だよ!
そんな立派な、心療内科医に行ったら二言目には入院を勧められる立派なレディーになってしまった私は、向精神薬とビールと揚げ物にまみれて、立派なお肉を育ててしまったのですよ、くそが。 こほん、おうんこが。 もとい、お大便様が!
具体的な数値は乙女の恥だから言わないけれど、タヌキ以上ゾウ未満といったところ。
そんなわけで私は運動というものに手を染めて、鉄板のような薄い胸に鋼鉄のような硬い意志を抱いて酒を断ち、毎日運動に精を出しながら、走って飛んで腕立てして肘打ちと膝蹴りをしながら、毎日汗と共に 「ぬあーん、10代の頃だったらもっと絶対体重落ちてるに違いないのに―!」 などと後悔を垂れ流している。
ヨーソロー、船を出せ。あの海はお前の流した汗、この海はお前の流した涙。しょっぺえ、だけども美しい。美しくはない、汗は何処まで行っても排泄物だ。