世界は不平等で満ち溢れてるけど、唯一、銃だけは誰に対しても平等だ。 どんなに弱くても引き金を引けば命を奪えるし、どんなに強くても頭か心臓を撃たれれば死ぬ。他の武器ではそうはいかない、剣にしてもナイフにしても、チェーンソーにしても、投げものにしても、どうしても体格の差や腕力の差が出てしまう。しかし銃は誰に対しても平等でいてくれる。 私は銃が好きだ。銃を握っている時間が好きだし、引き金を引く瞬間が好きだし、銃を袖や懐に潜ませている間の安心感が好きだ。 そして、
「待て! 待ってくれ!」 「待つわけないだろ、ヴァーカ」
パスンと空気が抜けるような独特な音を漏らしながら、サイレンサー越しに銃弾が通り抜ける。 銃弾はそのまま標的の眉間に突き刺さり、頭蓋骨の中で頭の中をぐちゃぐちゃに掻き混ぜて、標的の命を奪う。 趣味でやっているわけじゃないけど、この仕事を成し遂げる瞬間は好きだ。 今回の仕事は事務所ごと天まで吹き飛ばされた半グレの親玉、金御寺の残党狩り。きっちり全員仕留めろという話ではなく、6人の内なるべく多く始末すればいいボーナスステージ。 病院、薬の倉庫、拷問部屋、移動中の車、あっちこっちに潜む残党を狩るのは結構大変だ。それでも今さっき撃った奴を含めて5人も狩ったんだから、かなりよくやったと思う。私じゃないと3人で止まってたと思うね。
「んー! んんー!」
トランクの中に男がふたり、ガムテープでぐるぐる巻きにされてたけど、標的じゃないのでそのまま捨てておいた。 私は殺し屋だけど趣味で殺すことはしない。師匠にもいつも口すっぱく言われてる、快楽や私情で殺す奴は三下だ、って。
▽『仕事終わったっぴ』
SNSで何気なく呟く。別に誰になにを伝えたいわけでもないけど、私は友人も知人もいない。殺し屋にそんなもんいてたまるかって思うけど、作れないのと作らないのは全然違う。せめてSNSでくらい誰かと繋がってもいいじゃないか。
▼『おつかれっぴ』
暇なのかすぐにリプが飛んでくる。 何人かやりとりする特定の相手がいるけど、その中でもキャビア丼さんは特に暇人だ。きっと無職に違いない、無職にしては親子丼とかハンバーグとか家系ラーメンとか、載せる写真がいつも外食ばかりの上、基本的に生ビールがセットになってるからエンゲル係数と健康状態がやばそうだけど。 この前なんてメガジョッキビールに爆盛のいくら丼なんて食べてた。もしかしてフードファイターか何かなのか?
▽『ありがとちゃん』
スマホをポケットに突っ込んで、欠伸しながら電波も監視の目も届かない地下へと降りる。 殺し屋は地下生活者だ。いつでもどこでも姿を消せるように秘密の通路を何本も持ってる。最初はめんどくさって思ったけど、仕事をすればするほど監視カメラだらけの町にうんざりするし、地下通路のおかげで捕まらずに済んでる。誰が作ったか知らないけど、マジありがたいってところだ。
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